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経産省が「企業買収における行動指針」のポイント・Q&Aを公表 ― 指針は変わらず、解釈が明確になった

田中博文4分で読めます

2026年7月30日、経済産業省は「企業買収における行動指針」(2023年8月31日策定。以下、本指針)について、「解釈について(趣旨紙)」「ポイント」「Q&A」の3文書と、パブリックコメントへの回答を公表しました(出典:経済産業省「公正な買収の在り方に関する研究会」2026年7月30日公表資料)。

まず押さえるべきは、今回の公表が本指針の「改定」ではないという点です。経済産業省は、本指針のベストプラクティスと「望ましい買収」の考え方は今日も妥当であり、本指針を維持することを前提に、趣旨が正しく理解されるよう要点と解釈を示した、と明記しています(出典:趣旨紙1頁)。

背景には、指針策定後も趣旨が十分に理解されていない可能性があるとの指摘がありました。同省は「公正な買収の在り方に関する研究会」を再開し、対象会社・買収者・投資家・アドバイザーの計22者へのヒアリング(2026年2月〜4月)と、パブリックコメント(同6月18日〜7月17日)を経て、今回の公表に至っています(出典:趣旨紙 添付2)。

実務上のポイントは5つ

当社は、今回の公表文書のうち実務に直結するポイントは次の5点と考えます。

第一に、高値の買収価格であることのみをもって「望ましい買収」には当たらない、と明確にされたことです。「望ましい買収」とは、企業価値の向上と株主共同の利益の確保の双方に資する買収を意味し、企業価値の向上が前提となります。ただし同時に、買収価格は買収後の企業価値を示す重要な要素であり、過去の株価水準より相応に高い価格が示された場合には企業価値向上が合理的に期待し得る、という均衡の取れた整理がなされています(出典:Q&A問1・問5)。

第二に、「真摯な買収提案」の判断基準が具体化されたことです。①具体性、②目的の正当性、③実現可能性の3要件が示され、それぞれが合理的に疑われる場合の考慮要素が例示されました。特に実現可能性については、買収資金の裏付けとして残高証明書、融資証明書・コミットメントレターといった金融機関の書類が明示されています。一方で、取締役会が「真摯な買収提案」を恣意的に解釈して検討を避けてはならない、という牽制も明記されました(出典:Q&A問2)。

第三に、「企業価値」は将来キャッシュフローの割引現在価値の総和という定量的な概念である、と再確認されたことです。従業員・取引先の貢献や経済安全保障への対応といった一見定性的な価値も、将来キャッシュフローや割引率への影響が合理的に見込まれる場合には企業価値に含まれます。ただし、測定困難な定性的価値を過度に強調して保身の道具にすべきではない、と釘が刺されています(出典:Q&A問4)。

第四に、買収に応じる方針を決定した場合でも、取締役会は企業価値の向上の観点から判断することとされ、米国デラウェア州のような、価格のみを考慮するレブロン義務を課すものではないと明示されました。もっとも、買収の成否を最終的に決定するのは株主であり、取締役会の判断と異なる買収が成立し得る点への留意も求められています(出典:Q&A問6、ポイント8〜9頁)。

第五に、令和6年金融商品取引法等改正を踏まえた本指針の「読み替え」が整理されたことです。市場内買付けにより株券等所有割合が30%超となる場合の公開買付け義務付けや、大量保有報告制度の変更を前提に、2023年の指針本文をどう読むべきかが一覧化されました(出典:Q&A(参考))。

当社の見解

買収提案を受ける可能性のある上場企業にとっては、平時からの企業価値向上と資本市場との対話が、有事の比較検討と株主への説明の基盤になることが改めて示されました。買収者側にとっては、資金の裏付けや買収後の経営方針を具体的に示すことが、「真摯な買収提案」として扱われるための実務要件になったと言えます。

Q&Aは、本指針のベストプラクティスを参照して行動することで取締役の善管注意義務・忠実義務違反のリスク低下が期待される、とまで踏み込んでいます(出典:Q&A問7)。本指針は法的義務ではありませんが、上場企業の取締役会がこれを参照しないという選択肢は、実務上は考えにくくなったと当社は考えます。

いずれの立場でも、買収局面の対応は初動の設計で結果が大きく変わります。買収提案への対応、特別委員会の設置、企業価値向上策の定量化についてのご相談は、お問い合わせよりお寄せください。

(参考:経済産業省「『企業買収における行動指針』(ポイント・Q&A)」2026年7月30日 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kosei_baishu/20260730_report.html

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