M&Aはどう進むのか――「4つのフェーズ」と「最低4カ月」の理由
「M&Aを考え始めたが、何から着手して、どれくらいの期間がかかるのか分からない。」経営者の方からのご相談は、多くがこの問いから始まります。
結論から言えば、M&Aのプロセスは4つのフェーズに整理できます。当ブログの第一弾となる今回は、プランニングからクロージングまでの全体像を解説します。

M&Aの流れ――4つのフェーズ
M&Aは、検討の立ち上げから代金の払込みまで、次の4段階で進みます。
・プランニング:売却・買収のニーズを整理し、プロジェクトとして立ち上げる
・初期交渉:フィナンシャル・アドバイザー(FA)を介して条件を調整し、基本合意書を締結する
・デューディリジェンス(買収監査):書類と実地の調査でリスクを把握し、買収条件を固める
・クロージング:最終契約を締結し、代金を払い込む
どんなに速く進めても、着手からクロージングまで最低4カ月はかかるというのが当社の実務感覚です。決算期や資金の期限がある案件では、ここから逆算した計画づくりが欠かせません。
プランニング――相手探しと計画づくり
買い手にとって、候補先の見つけ方は2通りあります。
1つは、売り手やそのFAから売却案件が持ち込まれる場合です。売り手側で基礎資料が準備されていることが多く、検討に入るか否かを短時間で判断できます。
もう1つは、買い手側から仕掛ける場合です。まず候補企業のロングリスト(100社程度)を作成し、20社程度のショートリストに絞り込んだうえで、面識のない先へ打診します。相手に売却の意思がないことも十分に考えられるため、成約に至る割合は低くなりがちです。
候補先が定まったら、関係する法規制を確認し、スケジュールと予算を立てます。公認会計士・弁護士・FAに依頼する場合は、その費用の想定もこの段階で行います。
初期交渉――基本合意書までの駆け引き
秘密保持契約を締結した後、売り手は定款・財務諸表・事業計画などの基礎資料を提出します。買い手はその分析の過程で質問と回答を重ね、進める判断に至れば、買収金額やその他の条件を提示します。
条件の大枠で折り合えば、基本合意書を締結します。基本合意書には、双方の認識の齟齬をなくす、競合に対する排他性を持たせる、スケジュールを確定させる、といった役割があります。買い手にとっては、デューディリジェンスへの協力を取り付け、金融機関へ買収計画を書面で示せる効果もあります。
一方で、買収条件そのものに法的拘束力を持たせないのが一般的です。デューディリジェンスで大きな瑕疵が見つかった場合には、買収金額を合理的な水準まで引き下げる余地が残ります。要は、「本気で進めるための土俵を固める書面」ということです。
なお、売り手のFAが持ち込む案件で、買い手がFAを立てるか否かは任意です。ただ、M&Aに慣れていない買い手が単独で臨むと、先方のペースで案件が進み、条件面で不利になりやすいと当社は考えています。
デューディリジェンス――買い手が最も労力をかける工程
デューディリジェンスは、提出資料だけでは分からない情報を得るための実地調査です。売り手の本社や工場に赴き、大きな案件では2〜3日をかけます。
日程の前半で依頼資料の確認や現場の見学を行い、後半は法務・財務・ビジネスの分野に分かれて各部門の責任者にインタビューします。最後に代表者へのマネジメントインタビューを行うのが標準的な進め方です。
主な調査項目の例を挙げます。
・不良債権、滞留在庫、簿外債務、追徴税の有無と金額
・主要取引先との契約内容、特許等の権利と制限
・係争事件の有無、従業員の雇用条件
・設備能力・販売力の水準と、買収後の統合効果
デューディリジェンスは、買収価格を最終決定するための材料集めです。リスク要因の洗い出しが中心となるため、当初の基本合意書の価格からデューディリジェンス後に価格が上がることは、基本的にありません。売り手には事前の資料整備が、買い手には調査の設計力が問われる工程です。
クロージング――契約締結と代金払込み
調査を終えた買い手は、最終的な買収価格とその他の条件を売り手に提示します。双方が合意すれば最終売買契約書を作成し、取締役会等の機関決定を経て契約を締結します。
契約どおりに代金が払い込まれると、ほぼすべての権利が買い手に移転し、案件はクロージングを迎えます。
おわりに――全体像を先に持つことが、交渉力になります
4つのフェーズと最低4カ月という時間軸を先に押さえておくと、いま自分がどの地点にいて、次に何を準備すべきかが見えます。この見取り図の有無が、条件交渉の巧拙に直結すると当社は考えています。
当社は、大手金融機関に属さない独立系のアドバイザリー会社として、中小企業庁「M&A支援機関に係る登録制度」の登録を受け、売り手・買い手双方のご支援を行っています。検討の初期段階のご相談も承っていますので、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
今後は、事業承継で最初に整理すべき論点や、買い手候補を検討する順番など、各フェーズの実務を掘り下げる記事を順次公開していきます。
執筆:ジェイ・キャピタル・パートナーズ株式会社
代表パートナー 田中博文(証券会社でのIPO・M&A実務経験20年。中小企業庁「M&A支援機関に係る登録制度」登録事業者)
